ものづくり補助金(第22次公募)④補助上限の引き上げ戦略

第4回 賃上げ特例を活用した補助上限の引き上げ戦略

こんにちは、山崎コンサルです。

ものづくり補助金には以前から「賃上げ特例」による補助額の大幅引き上げの特例制度があり、第22次公募でも引き続き有効です。この特例を理解するかしないかで、受け取れる補助金が最大1,000万円も異なる可能性があります。

今回は、この大きなチャンスを活かすための方法について、詳しく解説します。

賃上げ特例とは何か~2つの仕組み~

補助上限を引き上げる特例には、大きく2つの種類があります。

① 大幅賃上げ特例(補助上限額が最大1,000万円上乗せ)

以下の両方の条件を満たす場合、補助上限額が引き上がります:

条件1:給与支給総額の年平均成長率が+6.0%以上
条件2:事業場内最低賃金が地域最低賃金+50円以上

例えば、従業員51人以上の企業で製品・サービス高付加価値化枠に申請した場合:

特例なし大幅賃上げ特例適用
2,500万円3,500万円
+1,000万円

② 最低賃金引上げ特例(補助率が1/2から2/3に引上げ)

以下の条件を満たす場合、補助率が引き上がります:

条件:2024年10月から2025年9月までの間で、補助事業の主たる実施場所で雇用している従業員のうち、「当該期間における地域別最低賃金以上で、2025年度改定の地域別最低賃金未満」で雇用している従業員が30%以上である月が3か月以上あること。

例えば埼玉県の場合は、最低賃金が2024年度は1,078円で、2025年度改訂で1,141円になりました(2025年11月1日から)。したがって当該期間に1,078円以上1,141円未満の従業員が30%以上いることが条件になります。月給制の社員も月給÷所定労働時間で時給換算額を計算して判定します。

逆に言うと、もともと従業員の大半を時給1,141円以上相当で雇用しているよう好待遇の企業はこの特例の対象にはなりません。少し理不尽な感じもしますが、最低賃金引上げの影響を大きく受ける企業を優遇するという趣旨なので仕方ないです。

補助対象経費通常(1/2)特例適用(2/3)
1,500万円750万円1,000万円
+250万円

なお、小規模事業者の場合はそもそも通常補助率が2/3なのでこの特例は関係ありません。
通常補助率が1/2の中小企業でも小規模事業者並みの補助率に引きあがるという特例になります。

「給与支給総額+6.0%」は本当に達成できるのか?

多くの経営者が感じる疑問です。「毎年6%も給与を上げるのは難しい」という反応が大半です。

しかし、ここが重要なポイント:「事業計画期間の平均値」であり、毎年きっちり6%である必要はありません。

実際のケースで考えてみましょう。

  • 規模:従業員50人の中小企業
  • 業種:自動車部品製造
  • 計画内容:AI検査装置導入により、品質向上と人員効率化

通常申請(特例なし)の場合:

  • 補助上限額:1,500万円
  • 補助率:1/2
  • 実施期間:10ヶ月

大幅賃上げ特例を申請した場合:

  • 補助上限額:2,500万円(+1,000万円)
  • 補助率:1/2(変わらず)
  • 実施期間:10ヶ月

条件:

  • 給与支給総額の年平均成長率+6.0%以上
  • 事業場内最低賃金が地域最低賃金+50円以上

給与上昇の具体的実装:

  • 現在:給与総額1億5,000万円(従業員50人、平均年収300万円)
  • 3年後目標:1億7,955万円(平均年収359万円)
  • 毎年の上昇率:約6%

実装方法:

  • 基本給 全員 +2%
  • 定期昇給 +1.5%
  • 資格取得手当 新設 年5万円~10万円

申請前の重要確認事項

賃上げ特例を活用する際の注意点:

□ 給与上昇が事業計画書に明記されているか
□ 給与上昇のための具体的な実装方法が説明されているか
□ 現在の従業員給与・最低賃金の水準を把握しているか
□ 3年後の目標給与が、企業の収益見通しと矛盾していないか
□ 部分的な給与上昇(昇給ではなく、一部職員だけの昇給)になっていないか

ポイント: 「給与を上げる」は素晴らしい経営判断ですが、その前提となる「事業の成長」が必要です。補助金で設備投資を行い、生産性を向上させ、その結果の利益で給与を上げる、という因果関係を明確に示しましょう。

次回(最終回)では「申請直前チェックリスト」をお伝えします。

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